衝撃がアメリカ人の良心を揺さぶっている。ワシントン・ポスト編集主幹で、古くはウォーターゲート事件の追及で知られる調査報道の第一人者ボブ・ウッドワード氏は、相手が大統領であろうと、一度食いついたら放さない強靭な意思の持ち主である。大統領選挙まで7週間に迫るなかで、氏の新刊『Rage(怒り)』がトランプ氏を直撃した。同書では、トランプ氏が早い段階でコロナウイルスの致命的な危険を知りながら、国民にそれを隠していたことが暴かれたのである(下掲の関連記事参照)。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がその余波をリポートする。
* * * 党大会の盛り上げ戦術が奏功し、バイデン氏に追いつけ追い越せの勢いだったトランプ氏は、ウッドワード氏の鋭いペンで進撃を止められた。 トランプ大統領は、新型コロナウイルスによるアメリカ初の死者が確認される数週間前には、このウイルスの致死性を認識しながら、公の場では繰り返し「インフルエンザより軽い風邪」と軽視する発言を繰り返した。その一方で、2月7日の時点で、すでにウッドワード氏に対して「これは致命的なウイルスだ」「インフルエンザの5倍以上の致死率になるかもしれない」と告白していたのである。 インタビュー内容を詳しく報じたCNNによると、トランプ氏は、大統領の仕事は「わが国の安全を維持すること」だと説明している。しかし、非常事態宣言を出した直後の3月19日のインタビューでは、「私はいつも控えめに言っておきたい。パニックを起こしたくないから、今でもそうしている」と語っているのである。 新刊では、かつてトランプ政権を担ったマティス前国防長官、コーツ前国家情報長官、ティラーソン前国務長官からのトランプ氏への厳しい批判も並んでいる。マティス氏は、トランプ氏を米軍の最高司令官として「危険」で「不適任」だと述べている。コーツ氏は、「証拠はないものの、ロシアのプーチン大統領がトランプ氏の秘密を握っているという疑いが強まっている。そうでなければ説明できないことがある」としている。
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