前回の米大統領選ではトランプを熱心に支持した人もいれば、迷った末に投票した人もいた。あれから4年。かつてトランプに1票を投じた人に聞いてみた。今年も彼を支持するのですか? トランプ支持者の声から現代アメリカの姿に迫る連載の6回目。
オハイオ州トランブル郡の飲食業ステファニー(46)にとって、最大の懸念は娘(20)の医療費だ。腎臓に難病を抱え、薬代などに月4500ドル(約47万円)かかる。保険で全額カバーされてきたが、医療費の支出削減を説く政治家は少なくなく、常に不安を抱えている。
4年前の大統領選では、大統領オバマが署名して成立した医療保険制度改革法(通称オバマケア)をめぐり、共和党トランプがこれを撤廃して「よりよい制度を導入する」と約束した。ステファニーはこの言葉を信じて、夫ロバート(52)とともにトランプに投票した。トランプは立候補の前から「社会保障とメディケア、メディケイドの削減はないと言明する最初で唯一の共和党候補者」(2015年5月のツイッター)と自らをアピールしていた。
拡大する2回目に取材した際もステファニーは医療保険制度の行方を心配していた。このときもトランプに投票したことへの後悔を口にした=2017年12月30日、オハイオ州トランブル郡、金成隆一撮影
メディケアは「高齢者向けの公的医療制度」で、メディケイドは「低所得者向けの公的医療制度」。いずれもセーフティーネットの拡充に前向きな民主党ジョンソン政権下の1965年に成立したものだ。
アメリカでは、民間企業ではなく政府が医療保険を手がけることを「社会主義的」と見る傾向があり、特に保守層や共和党支持層で反発が強い。その観点から、トランプが共和党候補として「削減はない」と宣言したことのインパクトは大きく、従来の民主党支持層がトランプ支持に流れる「壁」を低くする効果があった、とされる。
ステファニーのように、このメッセージを信じてトランプに投票した有権者は少なくない。彼女は、大統領選で党派制に左右されずに投票してきた有権者の一人だ。トランプは4年前にこういった票を集めることにも成功していた。
拡大する9月29日にオハイオ州で開かれた討論会で発言するトランプ大統領=AP
ところが、肝心の「約束」は果たされていない。トランプ政権の1期目はあと3カ月間で終わるが、オバマケアに代わる「よりよい制度」が示されていないのだ。そのためステファニーは、私が取材するたびに、いつも医療保険制度の行方を心配している。
オバマケア代替案の協議では「既往症の扱いが論点」と報じられ、ステファニーは驚いた。既往症が保険適用から外れれば、娘の医療費負担だけで、生活が困窮するのは明らかだ。ステファニーは「母としてやれることを」との思いで、トランプのほか地元選出の議員らに「難病患者の立場に理解を」と手紙を出してきた。
2017年5月の取材では「こんなことになると選挙前に知っていれば、トランプには投票しなかった」と早くも後悔を口にしていた。
◇
今年10月。久しぶりに電話をすると、ステファニーは怒っていた。近況を尋ねると、第一声がため息まじりの「クレージーよ」だった。
1週間前の9月29日にあった候補者討論会への不満が収まらないのだ。「アメリカ人は大統領候補のアイデアを聞く権利がある。でも相手の発言中に互いに口を挟むから討論にならず、何も聞けなかった。私は医療保険への立場を知りたかったのに」
拡大する「社会保障を削減しない唯一の共和党候補」というトランプの言葉を信じてきたステファニー(写真右)と夫ロバート。トランプに投票したことを後悔していた=2017年5月29日、オハイオ州トランブル郡、金成隆一撮影
あの晩、ステファニーは夫ロバートとテレビ観戦した。バイデンが司会者の問いに答え始めると、トランプがすぐに脇から口を挟む。司会者に制止されても話し続ける。何度も繰り返すので、しまいにはロバートが怒り始めた。「今回はあきらめた。棄権する」。4年前のトランプ票が一つ消えた瞬間だ。
討論会では、ステファニーの期…
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