明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督(64)が23日、日刊スポーツの電話取材に応じ、現在の心境を語った。

新型コロナウイルス感染拡大により、休校中だが、寮生の2~3時間の部活動は認められている。出場予定だったセンバツは中止になり、夏の大会開催も不透明な状況。「3年生の夏は一番の思い出になる。終息してくれんか…、祈るしかない」と悲痛な思いを明かした。

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明徳義塾は現時点で5月6日まで休校中だ。寮で生活する生徒に限り、2~3時間程度の部活動が認められている。高知県須崎市の横浪半島の一角に位置し、環境は独特だ。「うちの場合は場所が特殊なので、外部との接触がない。帰省先よりも寮の方が安全ということで、保護者の要望もあり、帰る生徒はいない」と馬淵監督は説明する。取材やプロスカウトの訪問はすべて断り、800人が1度に食事できる食堂は席の間隔を空け、対面させないように努めている。

甲子園通算51勝の名将も一変した日々に、語る言葉も力がない。「練習といっても、体を動かす程度。楽しみもないので、この前の週末に紅白戦のようなものをやったが、組織立ったことはやっていない。活動停止の学校に比べると、まだいいが、やはり気は入らないですよね」。出場予定だったセンバツは中止になり、春季大会もなくなった。今年に入り、練習試合にさえ臨めない。「今やれることを一生懸命やろう、希望を持って」。そう生徒には声を掛けているが、接する中で、ふとした表情が気にかかる。「夏も難しいんじゃないか、そんな表情が見えるんよ。新聞やテレビでいろいろな情報がある。子どもたちの心の中にあるんだろう。今年で65歳になるが、こういう事態は初めて。苦しいよ」。いつもは強気なセリフも影を潜める。

夏の大会開催は不透明な状況だ。「やはり生徒の安全確保が第一。コロナの感染が終息に向かう流れというのが、大前提になる。休校が続けば、課外活動はできない。練習や練習試合がいつできるか。さあ練習できますよ、と言っても、あの暑い夏にいきなり試合ができるのか、という問題もある。もう1つは、47都道府県の予選ができないといけない。この見通しがどうか。そのあたりを心配している」。その一方で生徒の気持ちを考えると、「夏」への思いはやはり強い。

「夏がない、というのは想像できない。レギュラーでも控えでも、勝っても負けても、3年の夏は一番思い出に残る。世間から怒られるかもしれないが、3年間、ずっと一緒にやってきた監督としては、できる状態ならやらせてあげたい。それは野球に限らず、インターハイなどを目指す他の競技の監督も同じ気持ちじゃないでしょうか。下級生で辛抱してきたことが3年生で花開く。レギュラーでも控えでも、それは財産だから。本当に終息してくれんか…、祈るだけですよ。本当に祈るだけ」。馬淵監督は絞り出すように言った。【田口真一郎】

◆馬淵史郎(まぶち・しろう)1955年(昭30)11月28日、愛媛県生まれ。現役時代は遊撃手。三瓶(みかめ=愛媛)から拓大を経て、いったんは民間企業に就職。その後、社会人の阿部企業でコーチ、監督を務め86年の日本選手権で準優勝。87年から明徳義塾のコーチに就任し、90年から監督。02年夏に初優勝。甲子園での監督通算51勝は歴代4位タイ。主な教え子はヤクルト森岡良介内野守備走塁コーチ、DeNA伊藤光捕手、楽天石橋良太投手ら。